千葉地方裁判所 平成5年(ワ)1881号 判決 1995年5月11日
原告
田中一郎
ほか一名
被告
堀岡正
ほか一名
主文
一 被告らは各自原告田中一郎に対し、一三四〇万九八六四円、同田中紀子に対し九八五万五八六四円及び右それぞれの金額に対する平成四年五月三日から各支払い済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告堀岡は原告田中一郎に対し、三一二万一四五九円、原告田中紀子に対し、二八一万五四五九円及び右それぞれの金額に対する平成四年五月三日から各支払い済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
四 訴訟費用はこれを一〇分し、その二を原告らのその八を被告らの負担とする。
事実及び理由
第一請求
被告らは各自原告田中一郎に対し、二一九六万一八二八円、同田中紀子に対し一五七〇万五九六一円及び右それぞれの金額に対する平成四年五月三日から各支払い済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
一 本件は死亡交通事故につき、被害者の両親である原告らが被害者の同乗車両の運転手と相手方車両の運転手を被告として損害賠償を請求する事案である。
二 争いがない事実
1 交通事故の発生
日時 平成四年五月三日午後九時三五分ころ
場所 千葉県市原市辰巳台東一丁目一番地先路上
相手方車両 被告堀岡正運転の普通乗用自動車(袖ケ浦五〇う七九五三号、以下「相手方車」という)
同乗車両 被告鈴木宗一郎運転の自動二輪車(一千葉さ七一八九号、以下「同乗二輪」という)
事故態様 相手方車が千葉県市原市山木方面から同市潤井戸方面に向かつて時速約四〇キロメートルで進行し、右事故現場である信号により交通整理の行われている十字路交差点を同市能満方面に右折する際、同所道路右折車線を相手方車後方から直進進行してきた同乗二輪と衝突し、同乗車両の後部に乗つていた田中誉(以下「誉」という)が路上に投出された。
2 誉は本件事故により頭蓋骨骨折、脳挫傷、出血性シヨツク、肺挫傷の傷害を負い、同月一〇日午後一時四六分に死亡した。
3 誉の相続人は父である原告田中一郎と母田中紀子の二人であり、各二分の一の相続分がある。
4 本件交通事故について原告らは自動車損害賠償保険から合計三二九六万六五三〇円の支払を受けた。
第三争点
一 本件事故について被告鈴木も被告堀岡とともに共同して責任を負担すべきか。
二 損害額
三 本件事故に対して、誉の側に同乗二輪の同乗者として被告らの損害賠償責任を減ずべき事由があるか。
1 被告鈴木
被告鈴木について本件事故の発生に責任があるとしても、被告鈴木と誉の人間関係から誉のヘルメツト不着用に対して一〇パーセント、無免許運転を容認し、赤信号での進行を指示したこと等から三〇ないし四〇パーセントの過失相殺を認めるべきである。
さらに、本件事故の発生については被告堀岡に九割の責任があるから事故発生については一割以下の責任しか負担しない被告鈴木については損害の公平な負担の観点から免責が認められるべきである。
2 被告堀岡
本件事故事に誉は同乗二輪の運転について被告鈴木と一体の関係にあつたといえるから、本件事故発生について被告鈴木が負担すべき時速二五キロメートル以上の速度超過と右折車線を直進したことによる四〇パーセントの過失割合は誉の側で負担すべきである。
被告鈴木の運転についての右過失が誉の過失にならないとしても、誉のヘルメツトの不着用、無免許運転の容認等の事情は誉自身の過失として三〇ないし四〇パーセントの過失相殺を認めるべきである。
第四証拠
本件記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。
第五判断
一 争点一について
前記争いのない事実及び証拠(甲一、乙一の一ないし四、一の六ないし九、一の一六、丙一、被告鈴木、被告堀岡)によると、本件事故時の相手方車と同乗二輪の走行状況について次の事実が認められる。
1 被告堀岡は相手方車を時速約四〇キロメートルで運転して千葉県市原市山木方面から同市潤井戸方面に向けて走行し、本件事故現場の信号のある十字路交差点に接近してから同交差点で直進するか、同市能満方面に右折するかを迷つたすえ、同交差点直前で右折することに決して、あらかじめ右後方の安全を確認して、右折の合図をし、交差点の中心の直近の内側をとおることをせずに、いきなり直進左折車線から右折を開始した。
2 被告鈴木は誉を後部に乗せて、同乗二輪を相手方車と同方向に進行し、本件事故現場の約一五〇メートル手前にある十字路交差点の進行方向の赤信号を無視して時速約八〇キロメートルで走行して本件事故現場に至り、相手方車が直進すると思つて、右折車線から追越し通過しようとした。
右事実によると、本件事故を発生させた主たる責任は本件事故現場において後続車両がないものとの誤つた判断のもとで、急な右折をしようとした被告堀岡側にあることは明らかであるが、被告鈴木についても夜間で通行車両が少ないことに気を許して、二輪車の運転者として他の走行車両の動静など運転中に払うべき注意を充分に尽くさずに制限速度を大きく上回る速度で進行した点で、本件事故についての責任を否定することはできない。
したがつて、本件事故の発生については、被告堀岡の責任がかなり大きいというべきであるが、その一方的な責任だけで引き起こされたものではなく、被告鈴木についてもその発生について責任が認められる以上、事故発生についての関与の割合は別として、誉に対する関係では被告両名が共同して不法行為の責任を負担すべき立場にあることが明らかである。
二 争点二(損害)について
誉につき発生した分 六二五六万五七五二円
1 入院関係費用 合計一九五万二一八〇円(甲二、三)
誉は本件事故により頭蓋骨骨折、脳挫傷、出血性シヨツク、肺挫傷の重篤な傷害により平成四年五月三日から同月一〇日死亡までの八日間、千葉県市原市姉崎所在の帝京大学医学部附属市原病院に入院しており、この間意識不明の状態であつた。
右につき
治療費 一八四万〇五八〇円
入院雑費 一日一二〇〇円として七日分合計八四〇〇円
文書料 三二〇〇円
入院慰謝料 一〇万円
2 逸失利益 四二六一万三五七二円
誉は死亡時には一八歳の中卒男子で未だ一定の職業にはついていなかつたが、就業の意欲及び能力はあつたと認められるから、六七歳までの四九年間を稼働可能年数とし、賃金センサスの全年齢平均給与額月額三九万〇九〇〇円を基礎として生活費五〇パーセントを控除してライプニッツ方式により中間利息を控除した金額(乙一の一〇、弁論の全趣旨)
3 慰謝料 一八〇〇万円
右認定の誉の年齢、生活環境、本件事故の状況等を総合考慮して右金額を相当と認める。
原告田中一郎につき発生した分 三四〇万円
1 葬儀費用関係 一四〇万円
原告一郎が出費した葬儀関係諸費用中次の内訳額の合計を本件の損害として認める(甲四の一ないし一一)。
葬儀費用 一二〇万円
誉の死体搬送から葬儀までの費用として原告一郎が一九二万八八六七円を出資したことが認められる。右金額のうち誉の年齢、社会生活関係を考慮すると同人の葬儀等及びそれに伴い購入された仏壇、仏具等の諸費用としては一二〇万円を本件事故による損害と認める。
墓石代等 二〇万円
原告一郎は誉のために建立した墓石の設置費用として、二八〇万円を出費したことが認められる。
原告一郎は右の費用の中一二二万七〇〇〇円は本件事故による損害と主張するが、田中家には既に墓地を所持しているから、誉のために新たに建てた墓石費用全額を損害と認めることはできず、通常の埋葬をしていたならば要したであろう墓誌の字彫料その他の費用相当額として右の範囲を損害とするのが相当である。
2 原告一郎固有の慰謝料 二〇〇万円
本件事故に関する一切の事情を考慮すると、誉の慰謝料の他に原告一郎固有の慰謝料として右程度の額を認めるのが相当である。
弁護士費用
右認定の本件についての事故の状況、審理の程度その他の事情を考慮すると原告一郎につき一八〇万円、原告紀子につき一〇〇万円が弁護士費用のうち本件事故と因果関係があるものと認める(弁論の全趣旨)。
三 争点三(好意同乗等)について
証拠(甲九、乙一の九、一の一〇、丙一、被告鈴木)によると次の各事実が認められる。
1 同乗二輪は被告鈴木が知人から購入したが、被告鈴木は無免許であり、当時在学していた高校では校則で二輪車の所持が禁じられていたために家には置けず、中学の先輩である誉に預け、誉が自宅アパートの階段下に置いていたが、誉においても被告鈴木と鍵を持ちあい、被告鈴木は本件事故当時は毎日のように誉方を訪ねて二人で交遊し、時に誉が同乗二輪を運転使用することもあつた。
2 本件事故当日は、夕方に被告鈴木が誉方に遊びに行き、誉の知つているガソリンスタンドで同乗二輪の調子を見てもらいに行くこととなり、被告鈴木が運転して誉が同乗して道を案内しガソリンスタンドへ赴いた。
3 ガソリンスタンドからの帰りは、初め誉が運転するつもりであつたが、誉は体調がわるいといつて被告鈴木に運転してもらい、行きと同じに後部に同乗した。
4 誉は、前記一2の本件事故現場手前の十字路交差点において被告鈴木に対して「行つちやえ」などと赤信号を無視して進行するよう示唆するなどし、また同乗二輪へ同乗する際に、ヘルメツトは着用していなかつた。
右事実から認められる本件事故直前の誉の言動からすると、誉は同乗二輪の運転利用の利益を被告鈴木と共有し、同乗中は被告鈴木の運転について支配的な立場にあつたというべきである。かつ本件事故による脳挫傷が誉の死因として大きいとうかがわれ、このことは結局誉が同乗時にヘルメツトを着用していなかつたことが傷害、死亡の結果を招いた可能性を否定できないことにる。
右の各要素は被告両名との関係で被害者側の過失として、本件事故による損害から一〇パーセントを減額するのが相当である。
さらに、右誉と被告鈴木の交遊関係、同乗二輪の利用についての関係、と右各関係からみて誉は被告鈴木の無免許を知つていたと推測できることを考えると、被告鈴木との関係では損害額のうちからさらに一〇パーセントの減額を認めるのが相当である。
右の点について、被告堀岡はいわゆる好意同乗減額を被告堀岡との間にも認めるべきと主張するが、右減額の要素は誉と被告鈴木の個別の関係を損害の公平な負担の観点から考慮して認められることであり、直接本件事故発生に起因する減額要素ではないから被告堀岡との間の減額要素として考慮すべき理由はなくこの点の被告堀岡の主張は採用できない。
なお、原告らは被告鈴木と誉の交遊状況についてある程度は知つていたと認められるが、両者の間の同乗二輪の使用状況についてまで知つて、親としての適切な指導をすべき状況であつたとまで認めるに足りる証拠はなく、したがつて原告らが誉の親権者として本件事故を防止するための指導監督をしなかつたということはできない。原告らが誉が同乗二輪を利用していることを知つていたとする被告鈴木の陳述は推測に止まり、原告らの落度を認める証拠としては採用できない。
四 結論
右二認定の損害金額を原告らの承継割合により配分すると、原告各自の取得した損害額はそれぞれ三一二八万二八七六円となる。
1 原告一郎については右額に固有の損害額を足すと三四六八万二八七六円であり、これから右三認定の過失割合一〇パーセントを差引くと原告一郎の取得した請求額は三一二一万四五八八円となる。
右金額に右認定の弁護士費用一八〇万円を足し、自動車損害賠償保険により損害の填補を受けている原告一郎分一六四八万三二六五円を差引くと原告一郎が被告堀岡に対し請求できる損害額は一六五三万一三二三円である。
被告鈴木との関係では右三一二一万四五八八円からさらに一〇パーセントを差引いた二八〇九万三一二九円に弁護士費用を足して、填補額を差引いた一三四〇万九八六四円が損害額として認められる。
したがつて、右被告鈴木負担額の範囲で被告らの損害賠償債務は不真正連帯の関係にたち、差額三一二万一四五九円は被告堀岡が原告一郎との関係では単独で支払うべき債務となる。
2 原告紀子についても取得した右三一二八万二八七六円から過失割合と填補額を引き、弁護士費用一〇〇万円を加算すると、被告堀岡に対しては一二六七万一三二三円、被告鈴木に対しては九八五万五八六四円の請求権があることとなり、その差額は二八一万五四五九円である。
以上の範囲で原告らの請求は理由があるから認容し、その余は棄却することとする。
よつて、主文のとおり判決する。
(裁判官 鎌田豊彦)